アメリカ・ファーストと対北朝鮮軍事オプション③~どこを攻撃するというのか?

米国が軍事オプションを控える中、北朝鮮は核・ミサイル開発を営々と続けてきた。その結果、北朝鮮のミサイル能力は米国が先制攻撃するには「進化しすぎた段階」に入り、米国が軍事オプションに踏み切る際のハードルを一段と引き上げている。近年、北朝鮮のミサイル技術は以下のような目覚ましい進歩をとげている。

  1. 射程距離の伸長:一部のミサイルは既に米本土に届く能力を持つ。
  2. ペイロード(積載可能重量)の増加:北極星2号は核弾頭を搭載可能と考えられる。
  3. 正確性の向上:ピンポイントで目標を攻撃できれば、通常弾頭であっても軍事的脅威は増大する。
  4. 起倒式発射機付き運搬車両(TEL)の実戦配備:米軍の衛星等でリアルタイムに察知しづらい。潜水艦からのミサイル発射技術が向上すれば、ますます厄介なことになる。
  5. 固形燃料:ごく短時間(10分程度)で発射可能なミサイルの種類が増えてきた。

これらのうち、④と⑤によって北のミサイルが抱えていた脆弱性は大幅に低下した。かつてのテポドンなら、舞水端里か東倉里にある地上発射台に据えられ、液体燃料が注入される様子を偵察衛星などによって把握することができた。事前に発射場所がわかっており、発射準備に時間がかかるため、仮に核弾頭ミサイルが米国や同盟国を狙っていると思われれば、米軍は躊躇なく北のミサイルを発射台もろとも爆撃し、破壊することができた。しかし、ミサイルが普段は地下に隠され、いざという時になったらTELに積まれて地上に現れて移動し、発射準備にかかる時間も固形燃料のおかげで大幅に短縮されれば、これを事前に破壊するための難易度は格段に上がる。北朝鮮部隊の動きを察知した米軍艦船や爆撃機が攻撃を加えても、既にミサイル車両はミサイルを発射した後、別の場所に移動しているためだ。

生き残る敵ミサイルの数が増えれば増えるほど、ソウルへの火砲・ロケット砲攻撃はもとより、在韓・在日米軍基地や日本の都市部が攻撃される危険も増大する。今日、米国による北朝鮮への先制攻撃は、ソウル(や東京)が人質にとられているという理由に加え、北朝鮮のミサイル技術の発達によって一層困難になってしまったのである。さらに、将来的に北朝鮮が核弾頭化された移動式(または潜水艦発射)の大陸間弾道ミサイルが配備されるようになれば、北朝鮮への先制攻撃は――仮にソウルを見捨てたとしても――不可能になる。(北朝鮮の狙いもおそらくそこにあるのだろう。)

それでも、「ミサイル防衛(MD)があるから心配無用」と言えればまだよい。しかし、MDに過大な期待は禁物だ。

迎撃精度はあがってきているものの、MDは百発百中ではない。撃ち漏らした中に核弾頭ミサイルがあれば万事休す。今月6日、北朝鮮は4発のミサイルを同時発射し、うち3発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。「飽和攻撃」とか「斉射」と言うらしいが、同時に複数のミサイルを撃たれると守る側の対応できるキャパを超えてしまい、MD網は突破されてしまう。加えて、北朝鮮はデコイ(囮)やチャフ(レーダー妨害片)などの妨害措置も講じてくるかもしれない。

MDにはもっと単純な弱点がある。それは「数」の問題だ。北朝鮮は日本を射程に入れたノドンやスカッドを数百基保有している。一方、正確な数は明らかでないが、日本のMD――ペトリオット(地上配備)とSM-3(海上配備)――の持つ迎撃ミサイルを足しあげても北朝鮮の持つミサイルの数よりも遥かに少ない。SM-3に至っては、イージス艦に積みこんだ分しか発射できない。意地の悪い言い方になるが、迎撃ミサイルを発射した後、イージス艦は(情報収集機能などを除けば)MDの任を果たすことなく浮いているだけとなる。北朝鮮のミサイルを事前に叩いてその数を減らせない限り、MDがあっても心配が少し減るだけで安心な状態がもたらされることはない、ということだ。

 

蛇足になるが、「どこを攻撃すればよいのか」という問題は北のミサイル以外にもつきまとう。例えば、北朝鮮が保有する核兵器。それが今どこにあるのか、おそらく米軍もわかっていない。北の持つ核を無力化できないまま、戦争に突入すれば、それが核弾頭ミサイルとして発射されるか、陸上で核爆弾として使用されるか、あるいは、テロリストなどに拡散するか、いずれにしても極めて厄介なことになる。

さらには、金正恩。北朝鮮の体制転換を実現するため、トランプ政権がこの独裁者を暗殺しようと思ったとする。無人機(UAVs)による爆撃であれ、特殊部隊による急襲であれ、金正恩の居場所がリアルタイムでわからなければ目的は達成できない。金正恩暗殺には、隠密裏に一発でしとめない限り、向こうが暴走して韓国や米軍、そして日本にも報復攻撃(または先制攻撃)を仕掛けてくる、というリスクが伴う。失敗したらまたやればよい、というわけにはいかない。(正確に言えば、上記リスクは暗殺が成功した場合でも存在する。)

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