アメリカ・ファーストと対北朝鮮軍事オプション①~北朝鮮攻撃の誘惑

 トランプ政権は現在、北朝鮮政策の見直し作業を行っており、そこでは軍事オプションも検討の俎上に乗っているという。従来の常識で考えれば、米国政府が軍事オプションを採用することはありえない。しかし、トランプが「アメリカ・ファースト」の理念に心底忠実であれば、北朝鮮の核施設等に対する先制攻撃オプションが現実のものとなる可能性も(極めて困難な決定だが)完全にゼロではない。その場合、日本も人的・物的な被害を受けるとともに、先の大戦以降初めてとなる「戦争」に踏み切ることも覚悟しなければならなくなる。

3月1日付のウォールストリート・ジャーナルは、トランプ政権が金正恩に核開発をやめさせるために対北朝鮮政策を見直しており、武力行使や体制転覆を含むあらゆる選択肢が検討されている旨伝えた。その後、3月16日に来日したティラーソン国務長官も「これまでの20年間のアメリカの政策は失敗で、核や弾道ミサイルの開発を許した。異なるアプローチが必要だ」と述べ、対北政策見直しの必要性を強調した。トランプ政権の再検討が進めば、日米間でも政策の擦り合わせが行われることになるだろう。

現時点でその中身は想像するしかないが、ジョージ・W・ブッシュ政権で首席国務次官補代理を務めたエバンス・リビアによる「2017年:朝鮮半島における決断の年」という論文がヒントを与えてくれると思われる。(https://www.brookings.edu/research/2017-year-of-decision-on-the-korean-peninsula/)リビアが挙げる選択肢は以下のようなものだ。

  1. 北朝鮮の核保有を認め、これ以上の核実験や核拡散をやめさせる
  2. 軍事行動(核・ミサイル施設を破壊する限定攻撃または体制崩壊を目指した全面戦争)に出る
  3. (北朝鮮が求めている)平和条約の締結に応じる
  4. 日本や韓国にも核保有を認める
  5. 中国に北朝鮮への圧力を強めさせる
  6. 制裁レベルをイラン並みに強化する(北朝鮮との金融・貿易取引を行う他国企業への制裁、海上封鎖の検討、THAAD配備の加速など)
  7. 制裁強化が効かなければ、体制転換の試みを本格化する(方法は軍事から圧力強化まで)

 これらのうち、本稿では軍事オプションの可能性について基礎的な分析と論考を行ってみたい。

 

叩けばいいじゃないか? 

核、ミサイル、拉致、暗殺…。北朝鮮という独裁国家はまさに悪行三昧と言ってよい。こんな国に核弾頭ミサイルを開発・保有され、侮辱的な恫喝を受けるくらいなら、「いっそのこと米国が北朝鮮を軍事的に叩き潰してしまえば話は早い」と心のどこかで思ったことのある人は少なくないだろう。正直に言えば、私も1999年に米国に滞在していた時、その可能性を真剣に探ったことがある。

核兵器の開発・配備を防ぐために軍事力に訴えた前例はある。1981年、フセインの核保有を恐れたイスラエルは完成間近だったイラクのオシラク(タムーズ)原子炉を空爆によって破壊した。この時は患部(原子炉)を除去する「外科手術的な」攻撃にとどまり、イラクとイスラエルの間の戦争には至らなかった。これに対し、2003年にブッシュ大統領が仕掛けたイラク戦争は事実上、イラクの保有する大量破壊兵器の破壊――結果的には「なかった」のだが――とフセイン政権の転覆を企図して行われた全面戦争であった。

では、米国に北朝鮮の核施設を破壊したり、金王朝の体制を終わらせたりするだけの能力はあるのか? 米国が精密誘導兵器を含む圧倒的な軍事力でアフガニスタンとイラクを叩きつぶしたことは記憶に新しい。経済規模で日本の1%にも満たない――CIAの推計による――北朝鮮の核施設を破壊することなど、米国がその気になりさえすれば、できない相談であろうはずはない。

しかし、前例や能力があったとしても、軍事オプションはそのベネフィットがコストを上回ると開戦前の時点で考えられてはじめて、実行に移されるものだ。2003年イラク戦争は、戦争の大義だったはずの大量破壊兵器が存在しなかったばかりか、戦後の占領地経営は内戦とテロにまみれ、フセイン亡き後にイスラム国(IS)の跳梁跋扈を許してしまった。そのため、戦争のコストはベネフィットを上回った、という評価が今では一般的であろう。だが開戦前、ブッシュは「大量破壊兵器はある」と信じていたし、フセイン体制を打倒すれば民主的な政府が比較的簡単にできるはずだと無邪気に考えていた。コストとベネフィットの比較には当事者の主観が大きく影響するものだが、フセイン打倒に賭けるブッシュの信念は宗教的熱狂を伴うとさえ言えるものであった。ブッシュが開戦前、戦争のベネフィットはコストを遥かに凌駕する、と判断していたことに疑いはない。

コストとベネフィットの比較という観点では、北朝鮮に対する軍事オプションは、1980年のオシラク空爆や2003年のイラク戦争とは似ても似つかない。コストがあまりに大きく、リスクは明々白々――。少なくとも従来、米政府はそう考えてきた。

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