北の核実験で米朝開戦は近づいているのか? ① ~「米国も北朝鮮も自ら相手を攻撃できない」状況は変わらず

9月3日、北朝鮮が六回目の核実験を実施した。朝鮮中央テレビはそれがICBM搭載用の水爆だったと主張している。トランプ政権が米本土に届くICBMと核実験をレッドラインと位置付けていたとも言われる中、緊張は激化するばかりだ。私の考えでは、「米朝が相戦う可能性は極めて低い」という従来の判断を変える必要はまだない。ただし、最近の北朝鮮の挑発行為は度を越している。それに伴って生じる新しいリスク・シナリオ――「北の挑発を米国が自国に対する攻撃と受け止め、自衛権行使として武力行使に訴える」――についても注意を喚起しておかなければならない。

 

基本認識=米国も北朝鮮も相手を自ら攻撃できない

米朝はそれぞれ、自ら相手を攻撃することができない――。これは北朝鮮の核・ミサイル問題を考える際の基本中の基本である。詳細な理由は過去記事を参照してもらいたいが、一言で言えば、「戦争になれば、米国が勝つ。ただし、北朝鮮は米国と日韓に耐えられないほどの被害を与えられる」ためだ。

※ もちろん、米朝が戦うことは絶対にない、と言うつもりはない。歴史上、戦争にならないという予測を裏切って始まった戦争は珍しくない。非武装地帯(DMZ)付近における偶発的な衝突、ミサイル発射実験の失敗による着弾など、当事者同士が意図せず起こった事態がエスカレートして開戦に至る可能性も完全に無視することはできない。

米国と北朝鮮が戦えば米国が圧勝する。これについて説明は不要だろう。その結果は金王朝の崩壊である。体制維持を至上命題とする北の指導部は、どんなに過激な挑発を行っても、自ら日米韓に本格的な攻撃を仕掛けることはない。(北朝鮮が米国に攻撃されるか米国による攻撃が不可避となった場合、金正恩暗殺など体制転換の試みが発覚した場合等はもちろん、別の話になる。)

しかし、北朝鮮もおとなしく負けるわけではない。緒戦段階で非武装地帯(DMZ)付近に配備した大量の火砲・ロケット砲がソウルと在韓米軍基地を襲い、十万人単位で犠牲者――在留米国人も含まれる――が出る。日本及び在日米軍に対しても多数のミサイル(ノドン・スカッド)が撃ち込まれることは避けられまい。ミサイル防衛によってそのすべてを防ぐことは不可能であり、相当規模の被害が生じる。最悪、ノドンが核弾頭化されていれば、広島、長崎の悲劇が繰り返される。近い将来は――もしかしたら既に現在も――グアム、ハワイだけでなく、米国本土も北朝鮮の核搭載ICBMによって攻撃を受ける可能性すらゼロではない。

では、現時点で北朝鮮に対する武力行使を控えた結果、北朝鮮が米本土に届く核ミサイルを開発・配備するという事態を米国はどう受け止めるのか? もちろん、決して愉快でないことは間違いないが、まったく耐えられないというわけでもなさそうだ。米朝の核戦力バランスを考えれば、北朝鮮は核ミサイルを配備した後も米国を先制核攻撃できないはず。また、米国はロシア(ソ連)及び中国の核ミサイルの射程に入って久しい。他国の核ミサイルの射程に入ること自体は米国にとって初めての経験ではない。

以上から常識的に考えれば、米国も自分の方から北朝鮮を攻撃しない(できない)という結論になる。米朝双方が自ら手を出せないのであれば、米朝間に本当の戦争が起きる可能性は非常に低い。先日の北朝鮮の核実験や度重なるミサイル実験にもかかわらず、この基本線は今も生きている。そして、この基本線の先にあるのは、北朝鮮が早晩、米本土に届く核ミサイルを開発・配備するという忌まわしい現実にほかならない。

なお、日本に関して言えば、状況は既に十分きびしい。現時点で確認する術はないが、最近の核実験やミサイル発射実験から窺える北朝鮮の技術水準を見れば、かなりの確率で「日本は既に北の核ミサイルの射程に入っている」と考えざるをえない。ICBMよりも射程が短い分、ノドンの方が重い核弾頭を搭載可能だし、大気圏再突入時の耐熱問題等も累次の発射実験でクリア済み。北朝鮮には、火星12や火星14に核弾頭を搭載してロフテッド軌道で日本を狙うという選択肢もある。とは言え、日本政府は政治的理由や対北戦略上の理由から、当面、上記の認識を公式に表明しないだろう。(時間の問題ではあるが・・・。)

※ このブログをあげたのと同じ日、小野寺防衛大臣は講演で「(北朝鮮が)脅威となる核兵器を持っていると考えざるを得ない」と述べた模様だ。上記を婉曲な表現で認めたというところだろうか。

 

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